信光祭ログ






夏の日和 / 謡季さん  


今、ひととき。

その安らぎを手に。

  「夏の日和」

庭に面したその縁側で、何の光も寄せ付けない、艶やかな漆黒の髪を、
その人は散らしていた。
目は完全に閉じられており、時々小さな唸り声とともに、体をゴソリ、と動かす。
頭上には茶の入っている茶碗がアリ、この暑さの中で、
茶碗の表面にはいくつもの水滴がついて、流れていた。
そのことから、先ほどまでは程よく冷えていた、というのが、容易に想像できる。
この炎天下、縁側で眠っている事自体が驚きなのだが、
その人は、気持ちよさそうに寝息を立てているのみだ。
日ごろの執務で疲れているのだろう、主の気配があろうとも、起きる気配が無い。
相当眠りが深いのであろう。
そう思い、その人の頬に手を伸ばす。
見た目の透き通るような肌の色とは違い、明らかに熱を吸い込んでいた。
そのくせ、頬は蒸気していない。

「・・・ッう・・・・」

薄く目を開いて、小さな呻き声を洩らす。
そして、目の前にいる人の顔を見た瞬間に、
目を丸くして、素早く起き上がった。
着衣の乱れをササッ、と直すと、真正面に向き直る。

「信長さま・・・?来ているのであれば、声をかけてくだされば・・・」

半ば早口で捲くし立てると、近くにあった、ぬるめの茶をノドに押し込む。

「そのように慌てなくともよい。ワシは光秀の顔を見にきただけだ」

そう言って薄く笑うと、光秀の髪を梳いた。
あんなに散らばっていればからんでいるだろう、と思ったのだが、
指の間をスルリ、と抜けてゆく。
熱を幾分か吸収してしまっているが、髪の質が気に入って、
何度も頭を撫でるように梳いてゆく。
一方の光秀は、気恥ずかしそうに目を伏せて、少しだけ俯いてしまった。
頬も少し、赤いように見える。

「・・・愛い」

「はっ・・・?」

呟いた言葉に、キョトン、とした目と、驚いたような声が返ってくる。
可笑しそうに目を細めて、

「愛い」

と、今度はハッキリと言った。
ハッキリといわれた言葉に、起きたばかりで頭がついていってくれない。
少しして、光秀が気付いたのか、今度は顔全体を赤くして、
「何を仰いますか!」と、声を荒げる。

「本当のコトをいったまでよ」

あっけらかん、と返されて、光秀は声を頭を抱えた。
そう、サラリ、と言われては・・・。

「愛い、のう。光秀?」

「・・・信長さま・・・?」

「・・・?」

「恋い慕い、しております・・・」

 


 









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