情死忌憚 / ガラシャさん
――殿、近頃城下で起きた情死事件を聞き及ばれていますか?
そう、女が男を情事の後殺した…。
女は即刻見つかって、首吊りの刑となったそうですが…、
その女、最後まで何かを握りしめていたそうでございます。
何を、握りしめていたか、殿はご想像が付きますか?
…ふふふ、流石の殿も、ご想像が及ばぬようで…。
ええ、お教えしますよ…。
その女、己が殺した男の一物を持っていたそうでございます…。
女というのは怖い生き物でございますね。
己が殺したくせに、男の一物を大事に大事に、地獄まで持っていくとは。
余程愛していたのでしょうか?
それとも、ただ男のそれが恋しかっただけなのか…。
まあ、今となっては解りませぬが…。
え、私も同じ事をしそうだと…?
ご冗談を!光秀は殿の一物など、欲しくはございません…。
あんなもの頂いても、腹の足しにはなりませぬ。
どうせなら、殿のその着ておられる豪華な小袖や、豪奢な具足を頂きます。
ああ、髪でも良いですね。髪も売れば、幾らかは金になるでしょう。
…それにね、殿。
一物は、性欲の具現す為にあるので、心は伴っておりませぬ。
光秀はどうせなら、殿の心臓を頂きたく存じます。
殿の全てが宿った、赤い心の臓を…。
え、ほんにしそうだと?おぬしは阿修羅だから怖いと?
何を今さら…その阿修羅を、傍に置き、愛でていられるのはどなたなのか。
…ふふふ、安堵なされよ、殿。
この光秀は殿亡き後、直ぐ追いますゆえ、
心の臓を抉り出す暇などなかろうかと存じます。