この恐ろしい夢に
気付かないことのなんという幸せよ。
『しんけいすいじゃく』
***
毎回お世話になっている病室の中で私はゆっくり目を開ける。
何度も見た病室の天井がやけに新鮮に感じるのは、頭を強く打った所為か。
変わらない消毒液のにおいが鼻につく。
ちょっとでも動かせば体の一部がはずれてしまいそうな痛みと、
抜け切ってない薬のせいか目の焦点が合わない。
少し遅れて吐き気がノドを襲う。
目覚めは最悪だった。
一度目も二度目もそれからも、ずっと方法は同じ。
高いたかい建物の上から身を乗り出すだけ。
グンと思い切り風を切るのは吐き気がするほど気持ち悪い。
感覚を思い出して武者震いする。
私はどうやら死ねないらしい。
コンコンと誰かがドアをノックする。
いつもと同じ、眼鏡をかけた優しそうな主治医が顔を出した。
何度あやまちを犯しても、この人は決して私をとがめようとはしなかった。
ギ、と椅子に座ると、主治医はいつもの口調で私に話しかける。
ああ、その言葉はもう聞き飽きた。
ため息もつけず、ぼんやりと窓を眺めながら聞き流す。
窓の向こうはいつもと同じ雲が流れている。
そしていつもと同じ、子供の笑い声。
ああ、同じ光景を何度見ただろう。
キィ、と扉の閉まる音がした。
主治医が話終え出て行ったのだと悟ると、私はゆっくりまばたきをする。
死ねないのではなくて
目を覚ませないのだということに
私は気付かないフリをして、また目をつむった。