いつもおんなじ夢を見る。
自分が棺桶の中で眠っている夢。
棺の中には綺麗な花がしきつめられていて、
これでもかってほどの青白い光に包まれてた。
だけどそこには恐怖も悲嘆もなくて
ただ漠然と桶が運ばれていくのを待っていた。
そんな気がする。
『マインドコントロール』
***
「ばっかじゃねぇの」
彼はそう言って私をけなした。
彼、といってもコイツは先日幼稚園を卒園したばかりのお子様である。
場所はとあるデパートの屋上。
姉と、姉の子供(コイツ)と、姉の不倫相手と、私とでなぜか出かけることになったのだ。
そして、子守をまかされ現在にいたる。
「夢なんてオレ見ねぇしー」
いち社会人である大人に生意気なことを言い放つとはいい度胸だが、暇つぶしにおかしな夢物語をしてしまった私も私である。
あきれている間にも、彼の口からひねくれた言葉がどんどん発せられる。
・・・まったく、この口の悪さはどこで学んだのか?
ふと、数分前まで姉の隣にいた金髪を思い出した。
これだから・・、と言い聞かせたところでなにも変わらないのはわかってる。
私は苦い顔をしつつ、はやく姉が戻ってくるよう祈っていた。
「てゆーかカンオケってなんだよ」
「・・・死んだら入るとこ。」
「はぁー?人間が死ぬわけねーじゃん!」
あぁ、そうか。
この子は『死』というものの存在を知らないのだ。
無茶苦茶で無秩序な現代社会の所為で、『死』というものを実感できないでいたのだ。
テレビごしで見るドラマでの死とおなじように。
この子にとっての人間は、そのへんの猫や犬とはちがう。
いわゆる最強サイボーグであって、
『壊れる』という機能は最初から存在していないのだ。
道理でおののかない筈だ。
それどころか、まだ『生』がどうやってできるのかさえ、知らない。
私は彼に、勝ち誇ったかのようにほほえむと、やさしく言ってあげた。
「ばかだなぁ・・人間は死ぬんだよ」
彼は思ったとおり、私の言葉にムッとしていた。
「なんでだよ!ビョーキになったらビョーイン行けばなおるぞ!」
「事故にあったら?」
「イシャリョーもらえるってかぁちゃんが言ってた!」
・・・まったく。
私はため息をついてから、姉がとおくで金髪とかぶさっている様子を眺めていた。
気付かない彼は、未だにプンプンしながら、買い与えられたアイスをほおばっている。
・・・まったく、汚れている。
私はもう一度、おおきなため息をついた。
そのため息を聞き、彼がまたくってかかる。
「なんだよおまえ!シツレーだぞ!」
「あーはいはい。あたし寝るから。姉さん来たら起こしてね」
「・・・じゃあ、どうやったら人間は死ぬんだよ!」
一瞬、私は息をのんだ。
おどろいたのではない。
期待のあまり嬉しさで、ぞくっとしたのだ。
荒く脈打ちだした心臓をしずめるようにゆっくり息を吸い込むと、
彼にやさしくまた言った。
「教えてあげても、イイヨ」
彼は目をパッと輝かせた。
そして、うんうんとふりこのように激しく首を縦にふる。
その様子をみて鳥肌がたった。
こんなにももろく・・
「鳥のマネをしてごらん」
壊せるとは。
「はぁ?わっけわかんねー」
「・・あそこ、フェンスが、大きくやぶれてるでしょ。」
私はフェンスがやぶれて空がむき出しになった場所を指差した。
「あそこから、鳥のマネをするの」
「あそこで?鳥のマネ、すりゃあいいの?」
「うん、そう。鳥のマネを、して?」
不思議そうな顔をする彼に、私はほほえんだ。
「ちゃんととんでね、お空に」
死ぬわけねぇじゃん!
彼はさいごにそういうと、私に背を向け、楽しそうに
笑いながら手を広げ
空へと
おちていった。
もしかしたらあの夢は
醜い世界から目を背けられる
いちばんのマインドコントロールだったのかもしれない