第1章


手に持ったコーヒーカップから、ユラユラと白い煙がたつ。
ランファスは入れたてのコーヒーを口にふくんだ。
ここはグアードルーブス東区東中央にある、とある喫茶店。
小さな店が所々に並ぶアース通りの路地裏にある名も無き喫茶店だ。
店内にはカウンター席と3席ほどテーブル席があるのみで、他に変わった特徴は無い。
時はもう少しで正午、店内にいる客はランファスを含め3人のみであった。
ランファスはカウンター席に腰をかけていた。
「なぁ、マスター」
ランファスは口にふくんだコーヒーを飲んだあと、
自分の目の前でコーヒーカップを磨くその喫茶店のマスターに声をかけた。
あまりハリのない声である。
「何かな、ランファスくん」
マスターは自分の磨くコーヒーカップを見つめならが返事をした。
「俺ってなんか恨まれるような事、やったのかな・・・」
「ハハハッ、私に聞かないでおくれよ」
ランファスの質問に対しマスターは苦笑いしながら答えた。
するとランファスは不機嫌そうに頭を掻き、苦虫を噛んだような顔をした。
「まぁ、奴らにとってはいい迷惑だったのかもしれないね」
マスターは今まで磨いていたコーヒーカップを置き、
また新たに他のコーヒーカップを磨きだしながら言った。
「俺はいじめられた後の犬を連れて行こうとしただけだぜ!?なのに何であんな目に遭わなくちゃならないんだよ」
そういいながらランファスは足をジタバタさせて、今度は両手で頭を掻きむしった。
そうやっていると、足に何か当たったことに気がついた。
ふと足元に目をやると―――子犬が舌を出してランファスを見つめていた。
「こいつだよ、こいつ。俺が痛い目に遭いながらもお前を助けてやったんだぞ、ありがとうぐらい言えよな」
「ハハハッ、犬には言えないよ」
ランファスは手に持っていたコーヒーカップを置き、足元で自分を見つめる子犬をそっと抱きかかえる。
抱きかかえられた子犬はランファスの顔が近づくと、顔を舐めようと手足をバタつかせた。
思わぬ子犬の行動にランファスは少し驚くが、嬉しそうに顔を拒ませる。
「ちょ、やめろよ、舐めるなって」
「ハハハハッ、そんなに可愛いんだ。良かったじゃないか、助けてあげて」
「ま、そうだな」
ランファスは子犬に顔を舐められる寸前に、そっと足元に子犬を下ろしてやった。
床へと下ろされた子犬は、他の客のところへと駆け足でその場を去っていた。
その直後―――店の扉が勢いよく開く音がした。
同時に店内に居た者全員が一斉に扉の方を振り向いた。
「おい、ここにアホな犬を助けたアホなガキは居ねぇか」
そう発したのはいかにも悪そうな大男であった。
目つきは悪く、眉間にはシワがより、店の天井に頭がぶつかりそうなくらいに背が高い。
服は所々敗れており、体も普通の人間に比べれば2倍近くはありそうで、筋骨たくましい。
店内は静まり返り、店内の者の視線はただ一点―――大男に定められていた。
大男は店内をぐるっと見渡す。
「居ねぇのか?・・・・って居るじゃねぇか」
大男はランファスの顔を見つけると、ゆっくりとランファスの近くへと歩み寄ってきた。
ランファスは長いため息をついた。
「よぉ、いつかのアホなガキじゃねぇか」
「俺はアホなガキじゃない、頭のいいガキだ」
ランファスは椅子から立ち上がり、自分の後ろに立っている大男を見上げ、睨みつけた。
「いや・・・・ガキじゃなくて、青年・・・だな」
しばらくの間ランファスと大男との睨み合いが続いた。
が、睨み合いののち大男が声を発した。
「ふっ・・・・表に出やがれ」
「はいはい、わかったよ」
大男は先に店の外へ出て行った。
ランファスはポケットに手を突っ込み、無造作に小銭を出し、カウンターに突き出した。
「マスター、コーヒー代。美味しかったぜ」
「どうも。頑張ってきな」
マスターは微笑みながらカウンターに置かれた小銭を手に取った。
店内に居る客は何が起こったのか訳が分からず、ただ呆然とランファスを見つめていた。
そして子犬は呆然としている客の足元で、姿勢よく座っているままであった。

 

ゆっくりと外に出たランファスは、店先にいる大男と少し距離を開けた位置に仁王立ちする。
「この前はよくも逃げてくれたなぁっ・・・・!」
大男は両手を腰に当てて、大きな声で言い放った。
「そりゃ、誰だって逃げるだろ」
ランファスは飽き飽きしたような声である。
「今日は1人なのか?この前は2人だったけど」
「ふっ・・・・ガハハハッ!!!」
大男は思い切り笑い出した、いかにも馬鹿にしたような笑い方である。
「ガハハッ!!・・・・1度目は1人、2度目は2人・・・・だったら今日はどうだ?」
突然の質問に、ランファスは首を傾げた。
「あぁ、そういうことか」とランファスは飽きれながら小声で言った
「今日は3度目、この前は2人で駄目だった。だから今日は・・・・3人・・・だろ?」
「そうだ、大正解。頭の悪いガキでも分かるんだなぁ!!ガハハハッ!!」
また大男は笑い出した。すると突然物陰から2人の男がのっそりと現れた。
どちらの男も、体が大きく目つきが悪い。
そして2人は手に鋭いナイフを持っている。
「だから、アホなガキでも、頭の悪いガキでも無いって」
「それはお前が決めることじゃねぇ、人が決めることだ・・・・・!!!」
そう言うと、大男の仲間2人が一斉にランファスに跳びかかる。
ランファスはそれを見やると後ろへと振り返り、猛ダッシュした。
跳びかかってきた男達はランファスには指一本も触れることが出来ず、ナイフは空中を切った。
「ふっ、また逃げるのか!!」
大男は小さな路地を突き進んで行くランファスの後ろ姿を眺め、
「おい、お前ら!さっさと追え!!」
仲間の男に命令した。
「おう!!」
2人の男は短く応答し、素早くランファスの背中を追い始めた。
大男は1人仁王立ちし、腕を組む。
「俺達を甘く見るんじゃねぇぜ、ガキがよぉ!ガハハハハッ・・・・!!」
例の大笑いのする大男の顔には、勝ち誇ったような皮肉な笑みがこぼれていた。

 

「おいおい、まだ追ってくるのかよ・・・!」
ランファスは未だに走り続けていた。
ここ東中央は狭い路地が入り組んでおり、どこの路地も左右には3階以上ある建物に囲まれている。
小さい頃からすんでいるランファスにとっては庭のようなものだ。
普通、この迷路のような路地で迷う人が多数である。
しかし今、後から追ってきている男達は、どんなに分かり難い道に入ってもずっと追ってくるのである。
「なんだなんだ!こいつら、この辺りの住人か?!」
息を上げながら独り言をつぶやく。
ランファスの体力もそろそろ限界に達していた。
走ることには自信があったランファスだが、後ろから追ってくる男達との距離はだんだんと短くなっている。
ランファスは一度後ろを振り向き、男達との距離を確かめ、前に向き直った。
その途端、視界に巨体の男が建物の影から現れたことに気づく。
巨体の男はランファスが進もうと思っていた道をふさいでいる。
「くっそ、俺はそっちに行きたいんだけどっ!!」
ランファスは体を左に傾け、身近にあった逆方向への道に入ることにした。
しかし―――そこには大きな壁と、見覚えのある先ほどの大男が立ち尽くしていた。
ランファスは反射的に急ブレーキをかけた。
ランファスの顔を見ると仁王立ちした大男は、腹の底から声を出して大笑いする。
身の危険を感じたランファスは急いで方向転換し、来た道を戻ろうとする。
―――が、時すでに遅し、先ほどまで追ってきていた男達と巨体の男が立ちふさがっていた。
「おい、ここは自分の庭だからって、今日も逃げ切れるとでも思ってたか?」
大男に図星をつかれたランファスは、「うっ」と声を漏らす。
「ガハハハッ!図星だな、本当にアホなガキだ!」
大男だけでなく、他の男達も一斉に笑い出す。
ランファスは少し腹が立っていた、その反面、とても危険なことに気づく。
「どうやってここまで来た」 ランファスは質問を投げかける。
すると笑い声がピタリとやんだ。大男は仏頂面になり、少し間を置いてから
「これだ」
大男はポケットから何かを出し、ランファスに見せ付けた。
それはアンテナが付いた、小さな受信機のようなものであった。
「実は後ろから追うだけじゃなく、建物の上からもお前を追っていたんだよ」
大男はランファスに受信機を投げつけた。
受信機はランファスの足に当たり、地面でグシャリと音を立て壊れた。
「建物の上から見張っていた奴らと連絡を取って、ここにたどり着いたわけだ。
お前がここら辺でしか逃げ回らないことは分かっていたしな!」
そういうことか・・・とランファスは思った。
どうやら事前に建物の上に仲間を配置し、受信機でランファスがどこで逃げているのかやり取りしていたらしい。
「その受信機壊れたけど、もういいのか?」
仏頂面だった大男は、いきなりほくそ笑んだ。
「あぁ、もういらねぇ。今日でお前とも・・・・おさらばだからよぉ・・・・!!」
ランファスは一歩後ずさる。
もう駄目か―――そう思った瞬間であった。

空から何か黒い影が降り注がれる。

黒い影はマントの様な物をバサバサとはためかせながら、大男の背後に着地した。
大男は自分の背後に何か着地したことに気づき、体を後ろに向ける。
「な、何だ!!!!」
少し戸惑ったような声で一歩後ずさる。
「4対1でケンカなんて良くない気がするけど」
そう声を発したのは、黒い影―――大男の2分の1くらいの背丈の人物だった。
「ケンカ・・・・じゃなくてイジメ・・・・かな?」
生意気な声で大男の巨体を見上げる人物。
全く見覚えの無い人物で、どうやら男らしい。
声質からして少年だと、そうランファスは思った。
そしてその男―――謎の少年はマントでなく、灰色のポンチョを身にまとっていた。
「だだ、誰だ!お前!」
明らかに怖がっている大男。
急に現れた謎の少年に驚きを隠せないでいるようだ。
「誰だって言われても・・・通りすがりの者です、とか?」
「なっ何でもいい!お前ら、先にこいつをやっちまえ!」
大男の命令にただ呆然とする男達3人。
「お、おい!さっさとやれ!!」
震える手で謎の少年を指差す大男の姿を見て、3人はようやく一斉に動き出した。
3人とも手に持ったナイフを少年に向け走りだす。
しかしそれを見た少年は何も動じない。
ランファスは少年が危険なことに気づき思わず「逃げろ!」と声を上げていた。
注意されても少年は動こうとしない、むしろ微笑んでいる。
ナイフを持った3人は一斉に少年に跳びついた―――しかし。
「うわあぁ!?」
跳びついたはずの3人は一瞬宙に高く舞い上がり、地面へと叩きつけられた。
地面に叩きつけたれた衝撃はとても大きかったらしく、3人とも悶絶している。
「ボクに手を出そうなんて・・・身の程知らずだね」
少年はゆっくりと歩を進め、独り怯え尻餅をついている大男の前に立つ。
大男は仲間が一瞬で倒されたせいか、額には冷や汗が流れガクガクと震えていた。
「おおお前!!なななっ何をした・・・!」
そう問われた少年は
「別に、何も」
と無表情で吐き捨てた。
大男は「わ・・・うわぁああぁー!!」と悲鳴をあげ、足をもたつかせながら立ち上がり、
そそくさと走り、姿を消した。
大男が去った後その場は静まり返り、ランファスはただ呆然と少年を見つめていた。
少年は地面に視線を落としていたが、少ししてからぱっと顔を起こし、ランファスに目を向けた。
「なんだか訳有りだったみたいだけど」
少年は何事も無かったかのような顔で質問する。
何なんだ、こいつ・・・とランファスは疑問に思った。
突然現れて突然敵を倒し、それなのに平然と立ち尽くしている。
「あぁ、少しな」
とりあえず少年の問いかけに答える。
「ふーん、そう」
とても生意気に応答した少年にランファスはすこし腹が立った。
少年は気絶して地面で仰向けになっている1人の男のそばにしゃがみこんだ。
「なんで俺を助けたんだ」
ランファスは少し仏頂面で言った。
「ちょっとそのあたりの建物の上を散歩していて、偶然通りかかっただけ。別に助けようとしたわけじゃないさ」
少年は仰向けになっている男の顔を観察している。
話によると、どうやら少年は3階の建物からここに飛び降りたようだ、とランファスは想像する。
「じゃあ何でこいつらを倒した」
さらに質問を重ねる。
「この人たちを倒したら、なんかスッキリすると思ってさ」
そう答えると少年は立ち上がり、ランファスの顔を見てにっこりと笑う。
「そういえば、この近くの大通りで警官が見回りしてたけど」
そう言われてランファスはえっと声を漏らす。
「それじゃ、ボクは行くね」
少年は歩き出し、その場から立ち去る。
ランファスは少年の姿が消えたのが確認し、短くため息を吐く。
しかし少年に"警官"というワードを聞かされたのを思い出す。
「やばいっ、見つかる前に逃げないと・・・・」
ランファスはその場で気絶している男3人を尻目にすぐに駆け出し、先ほどの少年が行った同じ道へと進んだ。



end



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ここまでお付き合いいただき、有り難う御座います!
長編連載小説に挑戦してみました。
見ての通り、あきらかに色んなものの影響を受けております。
そこら辺はスルーでお願いします(汗
自己満足小説なので、色々とお見苦しい点は多々ございますが、
どうかお許しください。

このお話は一応ファンタジー系ということになっております。
これからもっと展開させたいなぁ・・・と思っております。

ご意見、ご指摘、ご感想等あればサイトのトップにあります拍手の方でお願いいたします。

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